【質問と解答】

Q:台詞が全体的に極端に少ない、絵で見せる漫画。台詞は普通かもしくは多め、ページによっては少ないところもあるメリハリのきいた漫画。この2種類ではどちらのほうが好まれる傾向にありますか? 後者のほうが市場で多い気はしますが。

A:基本的にセリフが多すぎる漫画は駄目だとされています。もっともセリフが多いベストセラー漫画もたくさんあります。ミステリ漫画や業界もの、会話のキャッチボールを売りとしているギャグやコメディ作品などは、どうしてもセリフが多くならざるをえません。1本の漫画作品は様々な要素を持ち、対象読者も様々なので、ひとつの要素だけを取り上げて作品の優劣を語ることはできません。以下はそいういうことを踏まえて読んでください。

 漫画は絵と文字の両方で読ませる媒体です。セリフが多い漫画が駄目だと言われるのは、それらの多くが本来絵やシーンで見せるべきところを説明ゼリフで片付けてしまったり、作者が得々と自己満足的な解説をして読者をおいてきぼりにしてしまっているからです。前者だと例えば、主人公の心情をモノローグやナレーションで語るよりも、主人公の演技やシーンのカットインなどで読者に心情を想像させるほうがより共感を呼びやすいです。もちろん、モノローグやナレーションも上手く使えば効果的ですが、新人作家のネームでは演出効果についてあまり考えず、心情を単なる情報として語っていることが多いのです。これではせっかくの感動シーンも「主人公はこう感じているんだ。悲しいでしょ?」と作者の一方的な押しつけになって、醒めてしまいます。さて、次に後者は、ファンタジー作品やSF作品などでよくあるのですが、舞台設定や作品内の独自の概念についてナレーションやキャラの語りで長々と解説するケースです。作者のほうではそれらの設定が作品の売りだと思っていても、読者に関心を持たせる前にこれをやってしまうと解説を読み飛ばされるか、最悪面倒になって作品自体を投げ出されてしまいます。重要な設定は、文字での解説ではなく、エピソードの形で読者に提示する必要があります。そこで興味を持った後ならディテールをナレーションやキャラの語りで補っても読者はついてきてくれます。

 一方でセリフのない漫画はどうでしょうか。全編でなくとも一部のエピソード全体が無言劇というのは日本の商業漫画ではまれです。時折見られる作品も、大抵は実験作以上のものになりえていません。これにももちろん例外的な作品はあるのですが、数少ない成功例の作者は小林まこと先生やあずまきよひこ先生などかなりの実力派の作家さんばかりです。絵が主体と考えられている漫画という媒体であっても、絵だけで表現するのはそれだけ難しいと言うことです。それは、絵としての表現力を支えるだけの画力を要するということもありますが、それ以上に漫画の読者はセリフでコマを追っていくからです。セリフの少ないアクションシーンなどでも、「!!」や「!?」や「……」などのフキダシがありますよね? これはフキダシを入れることで読むリズムを作っているわけです。
 以上のように、セリフは単に量の多い少ないではなく、そのセリフは本当に必要なのかどうかを吟味した上で、演出効果と読者を誘導するリズムを考えて入れることが大事なのです。


その他のご質問は、フォームからお願いします。