【質問と解答】

Q:メリハリについてお聞きした者ですが今いち分かりません。少年誌のスポ根モノ正義が勝みたいな漫画が王道でクライマックスなどで見せゴマを大きく描くのは初歩的な常套手段です。この事だけがメリハリなのでしょ うか? そういった山場を描かないストーリー漫画はメリハリが無いのでしょうか。

A:あなたはクライマックス(山場)をアクションシーンとしかとらえていないのではありませんか? まったくアクションシーンのない恋愛物や本格推理物にもクライマックスは存在します。そもそもクライマックスのないドラマな どありません。前回の質問で参考用として少年漫画誌に限定したのは、青年誌だとドラマの枠に入らない作品も例外的にありうるからで、基本的には現在のストーリー漫画は少年漫画、少女漫画、ファンタジー系、成年コミックを問わずドラマ性を持ち、その演出のため及び読みやすくするためにコマにメリハリを持たせています。見せゴマというのは、クライマックスの見開きゴマとかだけではなくコマの大小こそあれ、ほぼすべてのページに(最低でも見開きページ単位で)用意されています。そして、見せゴマはアクションシーンのように外面的な動きをとらえたシーンに使うだけではなく、キャラクターの心理的な動きを描く時にも使います。また、読者に対して重要な情報をアピールする場合にも、一般的に言う見せゴマとは少し意味合いが異なりますが、コマを大きくしたり構図をアップにしたり集中線を入れたりと、そのカットを目立たせるための工夫をします。これもエピソード内での見せゴマと言っていいかもしれません。

 例えば、1ページ目に主人公を登場させるとします。まず読者に対してこいつが主人公だということを知らせる必要がありますから、主人公の初顔見せのコマが見せゴマとなります。作品が現代物で主人公の境遇がごく一般的な家庭の学生であれば、キャラクターのバックグラウンドの情報は重要ではありませんから、場所や時間を表す背景ゴマは小さくてもかまいませんが、異世界ファンタジー物や歴史物、あるいは現代物であっても主人公の境遇が特殊な物である場合は背景カットにも見せゴマを用意する必要があります。読者にとって作品を読むために重要な情報だからです。学生時代(まだ学生かもしれませんが)に試験勉強で教科書や参考書の重要ポイントに蛍光マーカーや赤ペンを入れたことがあるでしょう? それにあたるものが見せゴマなのです。さて、次にヒロインを登場させます。読者に彼女がヒロインだと認知させるために、主人公とヒロインの出会いにはインパクトが必要です。2P目で出会いのためのアクシデントで見せゴマ、次に3P目のめくりでヒロインを読者に紹介するための見せゴマを持ってきます。このように1ページごとシーンごとに見せゴマを設けることで、常に読者に対して注意を促し読み方に緩急のリズムを作り出していきます。それは即ち読者を飽きさせないことにつながるのです。

 最後に付け加えておきますが、大ゴマをとることだけがメリハリではありません。ページの中で特定のコマに読者の注意を促すのには他にも方法があります。前述したように、ロングのシーンの後にアップの構図を持ってきたり、集中線や大きな描き文字の効果音や心理効果背景などもそうです。ただし、アップも集中線も多用しすぎると、それで読者の目を引くことができなくなります。初心者にありがちなのですが、1ページの中で人物の顔がすべて同じ大きさだと平板に感じさせてしまいます。そうなると、ストーリーそのものに起伏が乏しい印象を読者に与えてしまいます。情報の重要度とキャラの心の動きに合わせて引きと寄りを使いわけることでページにメリハリが出てきて、さらにはストーリーの起伏を強調することができるのです。


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