【質問と解答】

Q:僕は成人向け(18禁)の同人誌というものがどうしても許せないのですが、 そもそもなぜあのようなものが世の中に罷り通っているのでしょうか?  自分のオリジナルならともかく、他人の作品のキャラクターを使って好き勝手に猥褻なものを描いてしまうという神経がまず理解できません。しかもそれを売って収入にしている人間までいると聞きます。もう近年話題のパクリ・トレス問題がどうとかいうレベルの話じゃないと思うのですが。自分が命を削る思いで創り上げた大切なキャラクターが、あんな理解できない人種の歪んだ欲望の捌け口(且つ小遣い稼ぎ)に利用され るのかと思うと、僕ならきっと怒りで仕事が手に付かなくなってしまうでしょう(事実成人向け同人誌の存在を知ってから今日までずっと胸糞悪い気分が続い ていますので)。権利を蔑ろにされただけでなく、自身の健康まで害されてしまうわけですから、当然訴訟なども起きていて当然だと思うのですが、そんな話は一向に聞きません。漫画作品の版権は各々が所属する出版社に帰属するということまでは知っているのですが、その辺りの権利問題などはどうなっているのでしょうか。出版社はちゃんと、大事なキャラクターを守ってくれるのでしょうか?

A:18禁同人誌の中には自分自身のキャラクターと設定で描いたオリジナル同人誌もありますが、大半ははやりのアニメ、漫画、ゲームのキャラクターと設定を使った「エロパロ」「18禁二次創作」と呼ばれるものです。はっきり言うと、それらはすべて著作権侵害にあたります。ただし、著作権法の条文に「告訴がなければ公訴を提起することができない」とあり、著作権侵害があっても権利者が訴えなければ、違法行為ではあっても犯罪行為とはみなされません。そこで、「権利者」の話になるのですが、漫画の場合、それは著者にあたります。出版社は著者との間に出版契約を結び、著作権の一部である「出版権」を委ねられていますが、著作権そのものは保持していません。また、日本の出版社はほとんどの場合、著者との間に著作権管理委託契約を結んでいないため(この契約を結んでいる場合は出版社も権利者となります)、著作権侵害に関しては著者が告訴の意向を示さない限り出版社が独自に動くことはできません。ですから、あなたがプロの作家になった時、二次創作同人誌を取り締まって欲しいならば、その意向を編集部に伝えてください。そうすれば、出版社があなたの作品の著作権を守るべく動いてくれるでしょう。

 二次創作同人が著作権侵害で訴えられる事例があまりないのは、そもそもエロパロ(二次創作という言葉は比較的新しいものです)がファン同士がファン活動の一環として配布・交換し合う「ファンジン(ファンマガジン)」の一ジャンルとして発生したという経緯があります。つまり、エロ方向の妄想をキャラに重ねていたとしても、ファンには違いないので、作家サイドも黙認してきたわけです。そうした中で、二次創作同人からプロになった方も大勢出てくるようになり、プロになってからも連載の傍らで二次創作を続けている方もいるのも理由の一つでしょう。18禁二次創作同人誌の歴史は30年くらいになると思いますが、現在では大小合わせて年間数十回にも及ぶ同人誌即売会や同人誌書店、デジタル出版にわたる巨大なマーケットができており、漫画・アニメ・ゲーム業界に構造的に深く根付いたそれに対して出版社としても態度を決めかねているのが現状で、告訴の判断は個々の作家に委ねているのです。ですが、過去まったく訴えがなかったわけではありません。'98年のときメモビデオ事件では『ときめきメモリアル』の18禁同人アニメを制作・販売した同人サークルに対し権利者のコナミが訴訟を起こしましたし、'99年のポケモン同人誌事件では『ポケットモンスター』の18禁同人誌を制作・販売した女性が権利者である任天堂による告訴から逮捕に至っています。'07年には18禁モノ ではありませんが、『ドラえもん』の架空の最終話を描いて1万3千部以上の 同人誌を売り上げたエロ漫画家が小学館と藤子プロによる著作権侵害の通告を受け、謝罪と売上金の一部を藤子プロに返還するということで和解に至っています。

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