【質問と解答】

Q:私は某少年誌でプロを目指しています。デビューはまだしていませんが、受賞経験は2度あり、現在は1日も早くデビ ューを果たすため、ネームに明け暮れる毎日です。そして今、すごく大きい壁にぶつかっています。私の描く話というのは、とにかくベタになってしまうんです。受賞した2作は、ジャンルが特殊なことに助けられたという感じで、王道の戦いものやアクションものを描くと、とにかくベタになってしまいます。もちろん、読者をあっと驚かせる展開や、伏線も自分なりに悩みながら描くのですが、担当さんには毎回一言目に「ベタなんですよね」と言われます。特殊なジャンルばかりに頼っていても今後プロとしてはいきづまるでしょう し、もともと私が描きたいのが少年ジャンプにあるような友情・努力・勝利がテーマの王道ものなんです。しょっちゅう映画や漫画等で、面白かったものを自分なりに分析し、なぜ面白いのか、伏線の張り方、あっと言わせ方、などを必死に勉強しているのですが、自分の作品となると「ベタ」から抜け出せません。なのでもちろん、たとえば死神のようなありふれたテーマを選べば「新しい死神像」など作れるわけありません。選ぶテーマがありふれすぎているのもよくないかと考えるのですが、でも、もし冨樫先生や荒木先生なら、ありふれたテーマを選んでも、自分なりの面白さで料理できると思うんです。この、「ベタ」になってしまうのはどうすればよろしいのでしょうか?


A:いちおうお答えしますが、担当編集者がついているのなら、あなたのこと、あなたの描く作品をよく知っているその担当さんに相談するのが一番ですよ。
 ベタな展開というのは必ずしも悪いことではありません。昔から何度も繰り返された展開、読者が見慣れた展開ということですから、それは過去から現在に至るまでの大多数の読者が望んできた王道的展開というわけです。ただし、見慣れた展開であるが故に読者に先が読めてしまいます。次に何が起こるかあらかじめわかっていれば、どんな展開をさせようと驚愕も感動もありませんよね? ですから、ベタな展開は読者が望んでいる展開であるにもかかわらず面白みに欠けるのです。野球にたとえると、王道な展開というのはストレート(直球)です。どんな剛速球でも、見慣れてくれば打たれてしまいます。ストレートがダメなら変化球を投げる? 昔、世界を救うために主人公が幾多の困難を乗り越えながら頑張るのですが、最後にやっぱり世界は滅び主人公も仲間も死んでしまうという作品を読んだことがあります。確かに驚愕の結末でした。この作品で作者の訴えたいことはあったのでしょうが、大多数の読者がこの結末を望んだでしょうか。作品作りにおいて変化球を投げることは読者の意表は突けますが、王道的展開よりも満足度においては劣りますし、何度も繰り返しているうちに読者も変化球に慣れてきます。では、どうすればいいのでしょうか? ストレートで押し通したいのにストレートが読まれやすいならば、変化球を織り交ぜてやりながらストレートを決め球とするのです。ストーリーの途中で何度か王道を外してやるのです。すると、読者はこの作家は一筋縄で はいかないぞと警戒してくれます。そこに決め球としてストレートを放り込んでやるのです。途中の変化球との落差からストレートはより威力を増します。また、タイミングを外してやる、という方法もあります。読者が展開を読んでくるのを逆手にとって、くるぞと予想するタイミングをずらしてやるのです。実際の作品への応用は言葉で言うほど簡単ではないですが、意識して演出を考えてみてください。
 また、キャラクターやアイテム、世界観などアイデア面での「ベタ」は、「足し算」の発想で脱するといいでしょう。例えば「死神」なら、通常イメージする死神像とはまったく逆の性格や属性を加えてやるのです。「お人好し」「泣き虫」「ケンカっ早い」「食いしん坊」「ヤンキー」「癒し系」「マッチョ」「セレブ」「天使」「チビ」「デブ」等々、思いつくまま挙げてみましょう。いくつかの要素を足してやれば、面白い死神キャラクターができそうだと思いませんか? 実際、過去のヒット作に思い当たるキャラクターがいるでしょう。足し算の発想で既成概念をひっくり返せばアイデアの幅はぐんと広がります。「ベタ」とは言わせない設定を練り上げましょう。

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