【質問と解答】

Q:少年誌でデビューして連載を目指している身ですが、あまりにもネームが通らずに気が滅入っています。
担当と1話につき5回くらい打ち合わせをして3話程度描き、編集部会議にかけて駄目出しをくらい、また各話5回くらい打ち合わせを重ねて編集長に提出するも、再びボツとなりました。直しのポイントも「ここをこうして」というよりは抽象的な表現が多く、訳が分からなくなって殆ど別のネタになってしまい、2度も編集長から「もうひとひねり」と言われたところです。ネームだけならもう1000〜2000枚は描いてます。2年以上通ってません。これが普通の世界なのでしょうか? それとも僕が未熟なだけなのでしょうか? 連載ネームが通るのに一体どれくらいの時間がかかるのが普通なのでしょう? 人それぞれだと思いますが、大体平均的にどういう人が多いか教えてくれませんか?




A:新人漫画家にとって連載獲得はデビュー以上に大きな壁です。デビューやデビュー直後の読み切りまでは「新人」という下駄を履かせてもらっての評価ですが、連載は雑誌を支えるプロとしての評価が求められるからです。少年誌の連載枠は20本前後ですが、その少ない枠をあなたが憧れていた連載陣やかつて連載していて次回作の枠を狙っている先輩作家、そして他誌で活躍している有力作家たちとライバルとして同列で争わなければならないのですから、そもそもハードルの高さが段違いなのです。もちろん、あなたと同じ初連載を目指す新人も大勢います。年間の新人賞の回数を思えばその数は容易に推測できるでしょう。過去数年間の新人賞の上位3割の入賞者が連載枠を狙って企画会議にネームを提出していると考えてください。
 そうした高い競争率にもかかわらず、知名度も漫画制作の経験値もある先輩作家に伍して、デビュー後間もなくにして連載を獲得する新人もいます。そういう方達は、漫画の技術だけではない「何か」を持っています。その「何か」は、魅力的な絵柄であったり、奇想であったり、独自の視点であったり、斬新な表現であったりといったその人だけが持つ「武器」です。そうした「武器」を手にして即連載を獲得した作家は、最近の例で言うと『進撃の巨人』の諌山先生でしょうか。新人賞受賞作が『進撃の巨人』読み切り版で、それが連載に結びついたわけですが、そもそもは自身の幼い頃に視聴した特撮映画で巨人が人を食うイメージをモチーフとした作品を創るという奇想へのこだわりに端を発しています。ですが、そういった「何か」を最初から持っている方はごくわずかです。ほとんどの方はデビューしてから、積み重ねの中でその「何か」を見つけていきます。あなたはこの2年間、没続きとはいえ2000枚にも及ぶネームを切り続けてきて、技術はずいぶん向上したのではないかと思います。ですから、決して没の2000枚は無駄にはなっていないでしょう。ただ、単に技術が向上しても知名度や固定ファンを持つ先輩作家を超えることはできません。当たり前の設定や展開ならば、より経験を積んだ先輩作家のほうが上手く創れるわけですから。編集長の求める「もうひとひねり」とは、設定やキャラクター、展開や演出に、先に述べたあなた独自の「何か」を加えて既成の作品の枠を越えることです。
 「もうひとひねり」とはいうものの、その「ひとひねり」が壁であることも編集者はよくわかっています。担当さんも色々とアドバイスをするでしょうが、最後は漫画家本人が見出すしかありません。そこが、打ち合わせで抽象的な表現にならざるをえないところなのでしょう。どうしても自分で「何か」を見つけられない時は、原作付きの連載を目指すのも手です。よく、アニメやラノベ作品のコミカライズを新人作家にさせるのは、新人作家に知名度と経験値を与えると同時に、その原作をぶつけることで新人に「何か」を見出すきっかけを与えるためでもあるのです。また、作家が「何か」を見出したとしても、担当編集や編集部が理解しなかったり雑誌のカラー上受け入れ難かったりすることもあります。そのあたりは自身で見極める必要がありますが、そうした場合には他誌に持ち込みし直すべきでしょう。あなたの場合、デビュー3年目を目安に今の雑誌での進退を考えてはいかがでしょうか。自分は編集部の中でどう位置づけられているのか、今の雑誌で連載を獲れる可能性はあるのか、あるとしたらどんな努力をすべきか──それらを担当さんと相談した上で今後の方針を固めてください。