【質問と解答】

Q:漫画家は自分の思うように漫画が描けないとは本当のことなのでしょうか? 自由に漫画を描きたいのなら漫画家は諦めたほうがいい、いつか絶対後悔すると以前漫画を描いていた方に言われました。「自由に描けない」範囲とは、編集の人のアドバイスやネタを却下できない、もしくはどうしても描きたいネタなのにボツをだされたら従うしかない、という事なのでしょうか。または、連載などのテーマやジャンル、ストーリーを用意した通りに描かなければならないのか、知りたいです。また比較的自由に漫画を描かせて貰える出版社があれば教えて頂きたいです。




A:あなたが話を聞いた元漫画家さんはよほど嫌な目に遭ったのでしょうか、ずいぶんシニカルな発言ですね。「自由に」という意味をどうとらえるかによるでしょうか。「自由に」という言葉を「自分勝手に」とか「独りよがりに」と言い換えると、それは商業誌では無理ですよと答えるしかありません。しかし、雑誌のカラーや対象読者(それらをわかって投稿しているはず)の範疇内では、漫画はかなりクリエイター個人の自由な創作が可能なジャンルです。
 本来、編集者のアドバイスや提供したネタを上回るものを作家が出せるならむしろ編集者としては歓迎すべきことです。そこで自分のネタは採用されず、担当編集にネタを押し付けられると不満を感じるとすれば、それは当人の力不足や視野の狭さがそもそもの原因であるケースも多いのではないでしょうか。もちろん、作家の意見に耳を貸さないゴリ押し編集がまったくいないとは言いませんが。また、描きたいネタが没になるのはそれだけの理由があるからです。雑誌のカラーに合わなかったり出版倫理に抵触するものは当然ですが、そうでないなら客観的に見て単に独りよがりで面白くないネタなのかもしれません。編集者の面白くないという判断がどうしても納得できないなら、他の編集部にそのネタを持ち込む自由もまたあります。また、連載などのテーマやジャンル、ストーリーを用意した通りに描かなければならないケースというのも確かにありますが、作家がオリジナルでそれを上回る企画が出せないのならやむをえないでしょう。むしろ、そういう連載機会を与えられること自体、編集部から将来性を期待されているということで、喜ぶべきことではないでしょうか。編集部にとってどうでもいい作家なら、そういう企画が持ち込まれること自体ありません。むろん、それでもオリジナルにこだわってその連載機会を蹴る自由もあるわけですが。いずれにせよ、何事にも無制限の自由などというものはありません。自由には相応の責任が伴うものですが、実績のない新人のうちは責任を負えるだけの覚悟も力も持ち得ないわけですから、その自由にも制約はついてこざるを得ないわけです。知識と経験、そしてスキルを積んで、着実に実績を重ねれば、自身のアイデアやテーマを担当編集に通すだけの説得力も自ずとついてきます。
 最後に、比較的自由に漫画を描かせてもらえる出版社についてですが、出版社というより編集部、雑誌でしょうか。具体的な誌名は挙げませんが、漫画マニア向けの雑誌が比較的自由度が高く、次がヤング誌でしょうか。より言えば、雑誌というよりそういう編集者と巡り会うのがいいでしょうね。ただし、作家の言うことを何でも受け入れてくれる編集者が良い編集というわけではありませんよ。